問題を知る
生産地の環境・社会への影響
押さえておきたいポイント
原生林の伐採
「原生林」は、日本では極相林や老齢林と同じ意味で使われ、樹齢が高い森を指すことが多いのですが、カナダでは、「原生林」とは、樹齢に関係なく、工業的な伐採を受けたことの無い森林を指します。こうした森林は、病虫害や森林火災などの自然によるかく乱によって更新しており、成熟した原生林には多様な樹種と階層構造が存在します。
日本が輸入する木質バイオマスの第 2 位の生産地であるカナダ・ブリティッシュコロンビア(BC)州では植林の歴史が浅く、植林木がまだ伐採に適した大きさに成長していません。そのため、現在伐採されている森林のほぼすべてが原生林です。
BC 州のペレット原料の 70~80%は製材所などで生じるおがくずや製材端材などの残材とされています。しかし、残材であっても原生林由来であることに変わりはなく、それを再生可能エネルギーの燃料とすることは適切ではありません。またBC州では、長年にわたる伐採により、製材価値のある木材が減少しており、近年は製材所の閉鎖が相次いでいます。このため製材所からペレット工場への原料供給も減少傾向にあります。
カナダでのペレット原料の 20~30%は森林を伐採して得られた丸太です。これらは「未利用材・低質材」と呼ばれ、病害虫や森林火災の影響を受けた木や、広葉樹を含む製材に適さないと判断された樹木です。こうした樹木は製材としての価値は低いかもしれませんが、伐採しなければ森林の構成要素として生態系を支える重要な役割を担っています。病虫害や森林火災でダメージを受けた樹木であっても、森林は自然回復する力を持っており、さまざまな生物の生活の場となっています。森林には「無駄なもの」は存在せず、全てが新しい生命を育むために循環しているのです。
失われる生物多様性
カナダ:日本のペレット輸入元として第2位(2023年現在)のカナダBC州で伐採されている森林のほぼすべては原生林です。
原生林はグリズリー(ハイイログマ)やクロクマ、絶滅危惧種の森林トナカイ、ヘラジカなどの大型哺乳類が生息し、洞にはフクロウが営巣するなど、豊かな生物多様性を支えています。
BC 州では1960年代から森林伐採が拡大し、特に80年代以降は持続可能とされる水準を大幅に超える伐採が続けられてきました。原生林から大径木の丸太が大量に切り出され、日本も主要な市場として、カナダの原生林由来の木材を大量に輸入していました。その結果、特に樹齢の長い古い原生林「老齢林(Old Growth)」は急速に減少しました。
現在BC州では、森林伐採後の植林が義務付けられています。しかし、植林される樹木は多くの場合、経済的価値の高いマツやトウヒなど1~3種類の樹種に限られています。そのため、皆伐後に成立する森林はほぼ単一樹種のモノカルチャーとなり、従来の原生林が有していた生物多様性は大きく損なわれます。カナダの原生林をバイオマス発電の燃料とすることは、この豊かな生物多様性の減少を促進することにつながります。
ベトナム:日本の最大の木質ペレット輸入元ベトナムでは、ペレットのほとんどがアカシアかユーカリの植林木を原料として生産されています。これらはどちらもオーストラリア原産の成長の早い樹木(早生樹)であり、ベトナムでは外来種です。これらの植林地では、木質ペレット生産のために植林後3~5年という非常に短い期間で伐採・再植林が行われます。このような「超短伐期ローテーション」は、土壌の栄養バランスを崩し、病害虫の被害が増えたり、土砂崩れなどの災害を起こしやすくなるなど、中長期的な環境への深刻な影響が懸念されています。
現在、同国におけるアカシアとユーカリの植林面積は約200万ヘクタールとされており、これは東京都の約10倍の広さに相当します。これらの外来種によるモノカルチャーでは生息する生物の種類が非常に限られます。
海外の木質ペレット生産地では、森林伐採とその後のほぼ単一樹種の植林により、生物多様性が急速に失われているということができます。
近隣住民の健康被害
日本向け木質ペレットの主要生産地である北米では、ペレット工場での大気汚染などの環境法違反が常習的に発生しています。近隣住民のぜん息など呼吸器系疾患の増加など健康被害が報告されています。
アメリカ南東部では、ペレット工場の多くが貧困率が高く、人種的マイノリティが多く住む地域に立地しています。PM2.5(微小粒子状物質)、スモッグの原因となる揮発性有機化合物などが、基準を大幅に超えて排出されています 。現地NGOが5つのペレット工場の近隣世帯を戸別訪問した調査 では、86%の世帯がペレット工場による汚染に関連した、またはそれによって悪化したと考えられる健康被害(ぜん息や目・副鼻腔・喉の炎症など)を訴えています。
また英国電力大手Drax社が所有する6つの木質ペレット工場では、2014年以降の10年で1万回以上の環境規制違反(水路の汚染、排出抑制措置の不実施などを含む)が報告されています。深刻な汚染と健康被害にもかかわらず、影響を受けるコミュニティは教育・雇用・医療への十分なアクセスが無い遠隔地に立地しているため、行政による対応も不十分な状況です。
同様の環境汚染はカナダ(BC州、アルバータ州)でも発生しており、2012年以降、約200件の環境規制違反が確認されています。